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美術家。1988年東京生まれ。インドネシア共和国ジョグジャカルタ在住。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。合同会社北澤潤八雲事務所(東京)、スタジオ・ビリンビン(ジョグジャカルタ)代表。インドネシア国立ガジャ・マダ大学文化学部人類学科客員教授。さまざまな国や地域でのフィールドワークを通して「ありえるはずの社会」の姿を構想し、多様な人びととの立場を越えた協働によるその現実化のプロセスを芸術実践として試みる。
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北澤による2000年代後半から2010年代にかけての主に日本のローカル地域を舞台にしたプロジェクトはどれも長期にわたる。たとえば2012年から2017年まで行われた「サンセルフホテル」では、約2000世帯が住む公営団地の上層階にある空き部屋を「架空のホテル」に変えた。この「ホテル」は団地住民を中心としたメンバーがスタッフとなって客室から食事、さまざまなサービスを手作りし、宿泊時のエネルギーは移動式の太陽光パネルを用いてゲストが自ら集めて使うというものだった。ホテルが現れる日の夜には、団地の上空に「夜の太陽」を住民とゲストが共に浮かべた。2011年の東日本大震災をきっかけに、供給された住空間やエネルギー資源といった既存のインフラストラクチャーの基盤が疑われはじめた日本社会。「セルフ」、つまり自らの手で社会や人間関係を創造し直すこのホテルは、「ありえるはずの社会」を芸術実践によって作り出す北澤のプロジェクトを体現するものとなった。
2016年以降、北澤はインドネシアに拠点をつくり、ふたつの国にまたがる視点を通して活動を発展させていく。屋台や鳥籠、市場といったインドネシアの日常を想起させる事物を日本に持ち込むことで、現代社会が失いつつある日常の創造性を人びとを巻き込みながら共に再創造することを試みてきた。2019年の「ノーウェア・オアシス」では、ジョグジャカルタの街中に点在する幕に覆われた移動式屋台「アンクリンガン」を東京に持ち込んで路上のあちこちに出現させた。東京で暮らすインドネシアの人びとと共にひらいた屋台の中で、訪れた客は日本語が通用しなかったりメニューがわからなかったりして戸惑う。しかしこの不自由は、日本社会がさまざまな理由を背景に海外から移り住む人びとに日々強いている不自由と同じであり、それが逆転しただけだった。プロジェクト期間の後半には、日本で暮らすインドネシアの人々でアンクリンガンがいっぱいになった。このプロジェクトは彼らにとって「オアシスがどこにもない(Oasis is Nowhere)」社会のなかで、「いまここがオアシス(Now Here is Oasis)」となる時間をつくりだした。
現在、北澤は日本を離れジョグジャカルタで暮らしている。自身の生活やジャワ各地の老人たちと出会い対話した経験から日本統治時代の影響に関心をもち、新たなプロジェクト「FRAGILE GIFT」を構想、実現に向けて奔走中だ。
学歴 2015年 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了
2012年 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表 現専攻修士課程修了
2010年 筑波大学芸術専門学群構成領域総合造形専攻卒業
学位 2015年 博士(美術)
2012年 修士(芸術表現)
2010年 学士(芸術学)
経歴 2021年〜現在 インドネシア国立ガジャ・マダ大学文化学部人類学科客員教授
2021年〜現在 NPO法人Be Creative! 理事
2016年 国際交流基金アジアセンターフェロー(インドネシア)
2015年 オークランド大学国際招聘アーティスト(ニュージーランド)
2013〜15年 上海大学パブリックアート研究所研究員(中国) 受賞 2016年 フォーブス「世界が注目する30歳以下の30人・アジア」アート部門選出
2014年 グッドデザイン賞2014
2014年 キッズデザイン賞2014
2014年 エコジャパンカップ・エコアート部門グランプリ
2012年 いばらきデザインセレクション受賞
学位論文 2015年 『「もうひとつの日常」を生み出すアートプロジェクトに関する研究』東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程学位論文
著書〈分担執筆〉 2020年 「ダブル・ローカリティ 異なる共同体が重なるところへ」十和田市現代美術館編『地域アートはどこにある?』堀之内出版
2012年 「いつかの少年へ」 せんだいメディアテーク企画/発行『ミルフィユ02 今日のつくりかた』赤々舎
その他の論文
2019年 「関係性の時間軸 『TOKIDOKI展』にみる過去・現在・未来」障害者の文化芸術国際交流事業報告書
2019年 「異なりと重なりー日常へのまなざし」ボーダレス・アートミュージアムNO-MA発行『ときどきー日本 とインドネシア展覧会カタログ』
2018年 「箱と箱と、もうひとつの箱 おすそわけ横丁が生み出した現場」東京都美術館『BENTO おべんと う展-食べる・集う・つながるデザイン展カタログ』
2018年 「即興する都市」株式会社月刊不動産流通発行『月刊不動産流通』2018年9月号
2018年 「『非常』の創造」株式会社ロフトワーク『Layout book』
2018年 「オーガニックなアートプロジェクトと美術館の新しい関係ー《放課後の学校クラブ》と『こども・こらぼ・らぼ』の連携から」水戸芸術館現代美術センター『「こども・こらぼ・らぼ」記録集』
2015年 「土地と人の記憶を再構築する『ワシントン・ハイツ』」株式会社アートビート「Tokyo Art Map」
2014年 「アート・リミナーズ ー芸術境界人として生きることー」筑波大学芸術支援研究会編『芸術支援研究』
2014年 「もうひとつの日常ー《マイタウンマーケット》がもたらすもの」月刊社会教育編集委員会編『月刊社会教育2014年11月号』
2014年 「サンセルフホテル物語」団地R不動産 連載コラム
2014年 「『問い』と『答え』」取手アートプロジェクト実行委員会発行「TORIDE団地タイムスvol. 2」2012年 「団地×アートが切り拓く新しい日常」東京R不動産著、日経BP社発行『団地に住もう!』
作品集/活動記録集 2016年 『時間旅行博物館の記憶』一般社団法人torindo、3月31日発行
2014年~〜17年 『DAILY LIFE』北澤潤八雲事務所(各月定期発行)
2013年 『放課後の学校クラブの教科書 もうひとつの学校のつくりかた』水戸市総合教育研究所、北澤潤八雲事務所、64ページ、3月31日初版発行
2012年 『北澤潤八雲事務所の仕事集2008-2012』北澤潤八雲事務所発行、38ページ、10月20日発行
2012年 『放課後の学校クラブ2011 活動記録ノート はじめての学校づくり』水戸市総合教育研究所、北澤潤 八雲事務所、48ページ、3月31日初版発行
2010年 「アーティスト・イン・児童館 北澤潤プロジェクト 児童館の新住民史 手記を辿る」東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団) 、10月1日発行
アートプロジェクト
2021年〜現在 《フラジャイル・ギフト》 ジョグジャカルタ・インドネシア
2020年 《ユー・アー・ミー》 奈良県奈良市
2019年 《ノーウェア・オアシス》 東京都豊島区
2019年 《ロスト・ターミナル》 青森県十和田市
2018年 《記憶の屋台のコンテスト》 ジャカルタ・インドネシア
2018年 《ひとときのミュージアム》 ジャカルタ・インドネシア
2018年 《ファイブ・レッグス・ファクトリー》 東京都台東区
2018年 《ファイブ・レッグス》 東京都中央区
2017年 《地球の鳥籠》 スマラン・インドネシア
2017年 《理想の家のコンテスト》 ジャカルタ・インドネシア
2016年 《リビングルーム鯨ヶ丘》 茨城県日立太田市
2015年 《リビングルーム泉町》 茨城県水戸市
2015年 《空想都市不動産》 オークランド・ニュージーランド
2015年 《アフターファイブガバメント》 東京都国立市
2014年〜現在 《フルムーン・ダイニング》 徳島県佐那河内村
2013年 《サンセルフホテル南機場》 台北市、台湾
2013年 《リビングルーム栄町市場》 沖縄県那覇市
2013〜15年 《時間旅行博物館》 京都府舞鶴市
2013年 《実りの湯》 徳島県徳島市
2013年 《サンセルフホテル- 六本木ショールーム》 東京都港区
2013年 《リビングルーム鷹巣》 秋田県北秋田市
2012年 《サンセルフホテル井野団地》 茨城県取手市
2011年 《放課後の学校クラブin浜田小学校》 茨城県水戸市
2011年 《家庭の宿題サークル2011》 東京都台東区
2011年 《放課後の学校クラブin星槎中学校》 神奈川県横浜市
2011年 《リビングルーム イン ネパール》 カトマンズ・ネパール
2011〜14年 《マイタウンマーケット》 福島県相馬郡新地町
2011年 《スクールオブスカイ》 ティンプー・ブータン王国
2010〜 11年 《放課後の学校クラブin五軒小学校》 茨城県水戸市
2010年 《家庭の宿題サークル2010》 東京都台東区
2010年 《リビングルーム徳島両国本町》 徳島県徳島市
2010年 《歩く町》 徳島県徳島市
2010〜15年 《リビングルーム北本団地》 埼玉県北本市
2009年〜10年 《児童館の新住民史》 東京都練馬区
2009年 《浮島》 新潟県新潟市
2008年 《病院の村》 茨城県つくば市
2008年 《九日間の家》 茨城県つくば市
展覧会
2021年 「Am I Alone?」オンライン展覧会、マレーシア
2020年 「NANDUR SRAWUNG # 7」タマンブダヤ・ジョグジャカルタ
2020年 「あしたの郊外ショールーム」たいけん美じゅつ場 VIVA
2020年 「古都祝奈良2019-20」奈良市アートプロジェクト
2019年 「ジョグジャカルタ・ビエンナーレXV」タマンブダヤ・ジョグジャカルタ、ジョグジャカルタ国立美術館2019年 「フェスティバル/トーキョー 19」東京芸術劇場ほか
2019年 「ウソから出たまことー地域を超えていま生まれ出るアート」十和田市現代美術館
2019年 「ときどき、日本とインドネシア」ボーダレス・アートミュージアム NO-MA
2018年 「Tokidokiー日本のアール・ブリュットinインドネシア」インドネシア国立美術館
2018年 「UENOYES 2018 バルーンDAYS 2018」 上野恩賜公園
2018年 「BENTO おべんとう-食べる・集う・つながるデザイン」東京都美術館
2018年 「YCC Temporary 北澤潤 “ネイバーズ・ランド”」ヨコハマ創造都市センター
2017年 「Arvhiving Resistance」ゲーテ・インスティトゥート・ジャカルタ
2017年 「Seeds of Memory: Japanese Artists in Yogyakarta」 ラングン・アート財団, ジョグジャカルタ2016年 「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」茨城県北芸術祭実行委員会
2015年 「Cafe in MITO R」水戸芸術館現代美術センター
2015年 「くにたちアートビエンナーレ2015」公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団
2014年 「空想する都市学」3331アーツ千代田、TKG+projects(台北)
2013年 「コンテンポラリーアートショウー新都心景ー」沖縄コンテンポラリーアートセンター OCAC
2013年 「徳島LEDアートフェスティバル2013」とくしまLEDアートフェスティバル実行委員会
2013年 「六本木アートナイト2013」六本木アートナイト実行委員会
2012年 「3.11とアーティスト|進行形の記録」水戸芸術館現代美術センター
2012年 「コミュニティスペシフィック・スタディー北澤潤八雲事務所の仕事集」黄金町バザール2012
2012年 「つくることが生きること」東日本大震災復興支援プロジェクト展」3331アーツ千代田
2011年 「空の芸術祭-ブータンからのHAPPINESSなメッセージ」ヨコハマトリエンナーレ2011連携プログラム2011年 「GTS観光アートプロジェクト」東京藝術大学、台東区、墨田区
2011年 「ソーシャルダイブ―探険する想像」3331アーツ千代田
2010年 「北本ビタミン2010」北本ビタミン実行委員会
2010年 「新住民のくらし展」アーティスト・イン・児童館
2010年 「徳島LEDアートフェスティバル2010」とくしまLEDアートフェスティバル実行委員会
2009年 「水と土の芸術祭2009」水と土の芸術祭実行委員会
2008年 「光景ー北条 光の展覧会」光景ライトスケープ実行委員会、国民文化祭・いばらき2008
ワークショップ等 2020年1月 「MOMENTARY MUSEUM」朱雀門広場、奈良市、奈良市アートプロジェクト2019-2020
2019年4月 「MOMENTARY MUSEUM」琵琶湖畔、ボーダレス・アートミュージアムNO-MA
2018年7-9月「STUDY ROOM」Tokyo Art Research Lab、アーツカウンシル東京
2018年2月 「FIVE LEGS ワークショップ」スターバックスジャパン、株式会社オープン・エー
2017年10月 「理想の都市をコラージュする」Green light―Artistic Workshop、ヨコハマトリエンナーレ2017
2015年3月 「マイタウンマーケット発想法」 PARC 4 : Open Studio 、札幌駅前通地下歩行空間