ステートメント

「二重の窓」

ずいぶんと長く、家の中から外を眺めていた。
窓は世界の額縁だった。

窓の外を見ながら、隔たれた国の暮らしを思い返す。
記憶の中にある遥か遠くの路上と、目の前の景色が重なった。

窓ガラスに、二重の風景を描き出そう。
窓枠に、複数
の故郷を装飾しよう。

「二重の窓」は、外と内をつなぐ窓ではない。
地球のどこかの誰かとつながるウィンドウでもない。

どちらでもない、どこにもない、「二重の国」を想像する、暮らしのなかの芸術だ。

描かれた景色は、いずれ色褪せて、消えていく。
その頃、あの二重の風景は、窓の向こうの現実として世界の一部になっている。


プロジェクト概要


DUAL WINDOWは、二つの国の風景と装飾を一つに融合させた作品である。遠く離れた二つの国の窓から見える風景を重ね、窓ガラスに描く。文化のかけ離れた二つの国の窓枠装飾をモチーフに、新たなフレームをつくる。そのガラスとフレームを組み合わせることで、場所と文化の距離を越えて、隔たりが一つに重なった「二重の窓」ができる。

窓は、外の世界と私たちをつなぐ。「二重の窓」は、まだ見ぬ世界を私たちに想像させる。

DUAL WINDOWは、家などの建物の持ち主とのやりとりを通して制作され、実際にその空間にインストールすることで完成する。「窓」として、実用されていく。展示され不特定多数の人に公表する作品とは対照的に、日常的な空間の中でその「窓」を内側から眺める限られた人に向けた作品である。


DUAL WINDOWの構想は、新型コロナウイルスの脅威が拡がる前からはじまった。にもかかわらず、まるで今の世界的危機に対する応答のようにも感じられる。外の世界へ移動することが困難となったとき、窓は内側にいる私たちと外の景色をつなぐ貴重な存在だった。PCの「ウィンドウ」を通して世界のあちこちとつながりつづけていても、窓のすぐ向こうにある触れることのできない世界が輝いて見えた。窓の内側から、外を自由に飛び回る鳥や虫たちを眺め、彼らに改めて憧れた。

私は、インターネットを介したウィンドウの未来よりも、むしろこのフィジカルな「窓」が本来持っている可能性に関心を寄せている。同時に、近代のアートの常識となった「展覧会」という仕組みの脆弱性にも、もう気づいている。展示を前提とせず、日常のすぐそばにあるアート。しかしながら、遠く離れた風景と他者同士が繋がることによって生まれる何か。感染症の脅威は、DUAL WINDOWをはじめるモチベーションをむしろ高めてくれた。

この窓がそれぞれ持つ風景と窓枠のモチーフとなった二つの国は日本とインドネシアだ。日本はわたしが生まれ育った国で、インドネシアはわたしがいま暮らす国だ。ここに並ぶDUAL WINDOWは、日本とインドネシアの文化が混ざりあった私自身を表している。この窓のなかの二重の景色は、二つの国の間で生きる私の想像する風景であり、これからわたしが実際に現実にしようとしている社会のイメージの一端でもある。


2020.12.02
北澤 潤




3D Prototype of DUAL WINDOW Japan-Indonesia #1-5 [close], 20201220

3D Prototype of DUAL WINDOW Japan-Indonesia #1-5 [open], 20201220
Drawing Production of Dual Window Japan-Indonesia #1, 20201127
Drawing Plan of Dual Window , 20200414